退職給付金と失業保険は、違う制度ではありません。広告で見かける「退職給付金」は、雇用保険の基本手当(=失業保険)と、健康保険の傷病手当金をまとめて呼ぶために、申請サポートを売る会社が使っている呼び名です。
法律に「退職給付金」という制度はありません。雇用保険法の全文を数えると、「退職給付金」は0回、「失業手当」も0回。出てくるのは「基本手当」で192回です。
同じお金を別の名前で呼んでいるだけなので、「退職給付金と失業保険を両方もらう」ということは起こりません。また、広告が指している2つ(基本手当と傷病手当金)も、要件が正反対なので同時には受け取れません。
この記事では、退職給付金と失業保険が何を指しているのか、条文にある本当の名前、いくら受け取れるのか、申請先はどこか、そして「増やせる」とうたう広告の中身を書きます。
この記事でわかること
- 退職給付金は失業保険の言い換え。業者の広告から広まった呼び名で、法律に制度はない
- だから「両方もらう」ということは起こらない。同じお金の別名
- 条文にあるのは基本手当。雇用保険法に192回出てくる
- 受け取れる額は1日あたり7,450〜9,110円が上限、日数は90日から360日
- 申請先はハローワーク。「退職給付金」という窓口はない
- 「増やせる」とうたう広告の中身は、就職困難者の300日と360日のこと
退職給付金は失業保険の言い換えで、別の制度ではない
「退職給付金」という言葉は、申請サポートを売る会社の広告から広まりました。指しているのは次の2つです。
| 広告の「退職給付金」の中身 | 正式な名前 | 窓口 |
|---|---|---|
| 失業保険 | 基本手当(雇用保険) | ハローワーク |
| 働けないあいだの給付 | 傷病手当金(健康保険) | 協会けんぽ・健保組合 |
つまり「退職給付金と失業保険の違い」は、制度の違いではなく呼び方の違いです。失業保険のことを退職給付金と呼んでいるだけなので、片方をもらったうえでもう片方をもらう、ということはありません。
国民生活センターも公表資料で、雇用保険の失業等給付について「一般に『失業保険』や『失業手当』、『失業給付』、『退職給付金』などと呼ばれることもある」と説明しています。なお、いつ誰がこの呼び名を使い始めたのかは、公開されている資料からは確認できませんでした。
なお、広告が指しているもう1つの傷病手当金は、基本手当とは同時に受け取れません。傷病手当金は「療養のため働けない人」、基本手当は「働ける状態で仕事を探している人」が対象で、条件が正反対だからです。使うとすれば順番になります。
退職給付金も失業手当も、雇用保険法には1回も出てこない

e-Gov法令検索が公開している法令データで、雇用保険法と健康保険法の全文を数えました。
| 言葉 | 雇用保険法 | 健康保険法 |
|---|---|---|
| 基本手当 | 192回 | 0回 |
| 傷病手当金 | 1回 | 81回 |
| 退職給付金 | 0回 | 0回 |
| 社会保険給付金 | 0回 | 0回 |
| 失業手当 | 0回 | 0回 |
正式な名前は「基本手当」です。「失業保険」も「失業手当」も「失業給付」も、日常で使われている呼び名にすぎません。ここは責められる話ではなく、ハローワークの窓口でも通じます。
気をつけたいのは、この呼び名のゆるさに乗って存在しない制度名が混ざってくることです。ある会社の広告に「再就職支援手当」という言葉がありましたが、雇用保険法にこの名前はありません。正しくは「再就職手当」で、就業促進手当の一種です。別の会社はサイトのタイトルに「失業保障」と書いていました。これも制度名としては存在しません。
雇用保険法に「傷病手当金」が1回だけ出てくるのも面白いところです。その1回が37条8項で、健康保険の傷病手当金を受けられる場合には雇用保険の傷病手当を支給しないという条文です。2つの制度が交わる1か所が、重ならないようにするための規定になっています。
失業手当は正式には基本手当で日数は90日から360日

基本手当の中身を押さえておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受け取れる人 | いつでも就職できる能力があるのに職に就けない状態で、離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上ある人。会社都合や特定理由離職者(契約期間の満了や、家庭の事情などで辞めざるをえなかった人)は離職前1年間に6か月以上でも可 |
| 1日あたり | 退職前6か月の賃金の合計を180で割った額のおよそ50〜80%(60歳から64歳は45〜80%) |
| 日数 | 90日から360日。年齢、加入期間、辞め方の3つで決まります |
| 期限 | 離職した日の翌日から原則1年。330日の人は1年30日、360日の人は1年60日 |
| 給付制限 | 自己都合は原則1か月(2025年4月改正)。退職日からさかのぼって5年間のうちに2回以上の自己都合離職で受給資格決定を受けていれば3か月。教育訓練を受ける場合は解除 |
| 窓口 | 住所を管轄するハローワーク。費用はかかりません |
1日あたりの金額には年齢ごとの上限があります。令和8年8月1日からの額です。
| 離職した日の年齢 | 1日あたりの上限 |
|---|---|
| 30歳未満 | 7,450円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,270円 |
| 45歳以上60歳未満 | 9,110円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,830円 |
この上限は毎年8月1日に変わります。金額を確かめるときは、その額がいつの年度のものかを厚生労働省のページで見てください。
自分の場合に何日ぶん受け取れるかは、契約しなくても確かめられます
日数を決めるのは、離職した日の年齢と、雇用保険に入っていた期間と、辞め方の3つだけです。無料診断では、いまの状況がどの区分にあたるのかを確かめられます。
受給の可否と金額はハローワークの審査で決まります。
退職したときに実際に使える公的な制度の一覧
呼び名ではなく制度の名前で整理した一覧が次のものです。
| 制度 | どんなとき | 窓口 |
|---|---|---|
| 基本手当 | 働ける状態で、次の仕事を探しているとき | ハローワーク |
| 傷病手当金 | 療養のため働けないとき | 協会けんぽや健保組合 |
| 再就職手当 | 所定給付日数を3分の1以上残して安定した職に就いたとき | ハローワーク |
| 常用就職支度手当 | 就職困難者などが残日数3分の1未満で就職したとき | ハローワーク |
| 高年齢求職者給付金 | 65歳以上で離職したとき | ハローワーク |
| 教育訓練給付金 | 指定された講座を受けたとき | ハローワーク |
| 国民健康保険料の軽減 | 会社都合などで離職したとき | 市区町村 |
| 国民年金保険料の免除 | 離職して納付が難しいとき | 市区町村や年金事務所 |
広告が「退職給付金」とまとめて呼んでいるのは、このうち基本手当と傷病手当金の2つです。ほかの制度は別に申請します。
退職給付金と失業保険は両方もらえますか。
両方という関係になりません。退職給付金は失業保険を指す呼び名なので、同じお金です。
広告が「退職給付金」に含めているもう1つの傷病手当金も、失業保険とは同時に受け取れません。片方は「働ける」、もう片方は「働けない」を前提にしているので、同じ時期には成立しないからです。使うなら順番になります。
「増やせる」という広告の中身は、就職困難者の日数のこと
「退職給付金を増やせます」「最大28か月」といった広告があります。この数字の正体は、条文をたどると出てきます。
基本手当の日数を決めるのは、離職した日の年齢、雇用保険に入っていた期間、辞め方の3つだけです。よりみちを含めて、事業者が動かせる要素は法律にありません。
そのうえで、日数が大きく伸びる区分がひとつだけあります。就職困難者です。雇用保険法22条2項で、加入期間1年以上なら45歳未満は300日、45歳以上65歳未満は360日と定められています。自己都合の90日と比べると3倍から4倍です。
就職困難者にあたるのは、雇用保険法施行規則32条が挙げる5つだけです。
- 身体障害者
- 知的障害者
- 精神障害者
- 保護観察中で保護観察所長から連絡があった人
- 社会的事情により就職が著しく阻害されている人
3号の精神障害者には、障害者雇用促進法施行規則1条の4で「症状が安定し、就労が可能な状態にあるもの」という条件が付いています。診断書があれば自動的に日数が伸びる制度ではありません。
JA共済の記事も「『退職給付金を増やせる』怪しい広告に注意」という見出しを立てています。大手の媒体が業者の訴求に警鐘を鳴らしている状況です。
申請サポートへの相談件数は4年で5倍に増えている
国民生活センターが2025年12月3日に公表した数字です。
| 年度 | 相談件数 |
|---|---|
| 2021年度 | 42件 |
| 2022年度 | 54件 |
| 2023年度 | 113件 |
| 2024年度 | 217件 |
| 2025年度 | 216件(10月31日までの登録分。前年の同じ時期は90件) |
相談の中には「うつ病と診断されるためのマニュアルが送られてきた」というものがありました。国民生活センターは「給付を増やすために事実ではない内容で申請すると不正受給となり、申請者本人が責任を問われることになります」と書いています。
ハローワークによれば、不正受給が判明した場合は返還を命じられるうえ、返還額とは別に、不正に受け取った額の2倍に相当する額以下の金額の納付を命じられます。
よくあるもらい忘れは、この2つ
- 受給期間の延長を出し忘れる
- 後半がまるごと受け取れなくなります。期限が過ぎてから気づいても、あとから戻すことはできません。
- 傷病手当金と失業保険の順番を間違える
- 片方だけで終わることがあります。どちらから使うかは、体調と辞め方で変わります。
自分がいくら受け取れるかは、離職した日の年齢と、雇用保険に入っていた期間と、辞め方が決まれば計算できます。無料診断で確かめられます。
失業手当を自分で申請する手順
- 会社から離職票を受け取る。会社は雇用保険の資格喪失届を退職の翌日から10日以内に出す義務があるので(雇用保険法施行規則7条)、退職後10日ほどで届くのが一般的
- 離職票、本人確認書類、マイナンバーがわかるもの、写真、本人名義の預金通帳を持って、住所を管轄するハローワークで求職の申込みをする
- 受給資格の決定を受ける。ここで所定給付日数が決まる
- 7日間の待期期間がある。自己都合の場合は、そのあと原則1か月の給付制限がつく
- 雇用保険受給説明会に参加し、失業の認定日にハローワークへ行く
- 認定を受けたぶんが、おおむね1週間ほどで振り込まれる
離職票が手元にあり、辞め方の区分にも体調にも迷いがない人は、この手順を自分でたどるのがいちばん安く済みます。窓口の費用はかかりません。
ただし、受給が終わるまで4週間に1度ハローワークに通い、そのたびに求職活動の実績を報告します。体調を崩して辞めた人は、傷病手当金と失業保険のどちらを先に使うかで結果が変わり、受給期間の延長を出し忘れると後半がまるごと受け取れなくなります。順番と期限に迷うところがあるなら、私たちが運営しているよりみち給付金サポートの無料診断で、自分がどの制度の話をしているのかを先に確かめてください。
知恵袋でよく聞かれている退職給付金と失業手当の違い
Q&Aサイトでこの言葉が出てくるとき、聞かれているのはだいたい次の3つです。
| よくある質問の形 | 実際に聞かれていること |
|---|---|
| 退職給付金って失業保険のことですか | 広告で使われている総称かどうか。多くの場合は基本手当と傷病手当金の2つを指しています |
| 退職給付金は失業保険とは別にもらえるお金ですか | 別にはもらえません。失業保険のことを退職給付金と呼んでいるだけです |
| 退職給付金の会社に頼むと本当に増えますか | 金額と日数は増えません。年齢と加入期間と辞め方で決まります。変わるのは使う順番と、出し忘れをなくすところです |
回答が食い違って見えるときは、相手が広告の呼び名で話しているのか、雇用保険の基本手当の話をしているのかで用語がずれています。ハローワークで通じるのは「基本手当」「失業保険」のほうです。
制度そのものの疑問は、住所を管轄するハローワークが無料で答えてくれます。契約の話が絡んで不安になったときは、消費者ホットライン188に相談できます。
退職給付金と失業手当の違いによくある疑問
退職給付金と失業保険は両方もらえますか
もらえません。両方という関係ではなく、退職給付金は失業保険を指す呼び名だからです。広告が「退職給付金」に含めているもう1つの傷病手当金も、失業保険とは同時に受け取れません。療養して働けない期間は傷病手当金、働ける状態に戻ってから失業保険、という順番になります。
退職給付金という制度は本当にあるのですか
ありません。雇用保険法にも健康保険法にも、その名前の給付は出てきません。あるのは基本手当と傷病手当金です。申請サポートの広告がこの2つをまとめて「退職給付金」と呼んでいるだけなので、ハローワークの窓口で「退職給付金をください」と言っても通じません。
退職給付金と呼ばれているお金はいくらもらえますか
広告が指している意味なら、基本手当は1日あたりの額に日数を掛けた額です。1日あたりの上限は年齢ごとに7,450円から9,110円、日数は90日から360日です。自己都合で90日の人なら、上限額で計算しても約74万円になります。
退職給付金の申請はどこでするのですか
基本手当は住所を管轄するハローワーク、傷病手当金は加入している健康保険(協会けんぽや健保組合)です。「退職給付金」という名前の窓口はありません。
失業手当は正式には何という名前ですか
雇用保険法上の名前は「基本手当」です。求職者給付のひとつで、ほかに技能習得手当、寄宿手当、傷病手当があります。窓口では「失業保険」「失業手当」でも通じます。
自己都合だと退職給付金はもらえませんか
もらえます。離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上あれば受給資格があります。ただし7日の待期期間のあとに原則1か月の給付制限があり、日数も10年未満なら全年齢で90日です。
退職給付金サポートは詐欺ではないのですか
会社が実在して、料金と契約条件が契約の前に読めるなら、それ自体は詐欺ではありません。確かめるのは、国税庁の法人番号公表サイトに商号があるか、特定商取引法に基づく表記に総額と返金の条件と電話番号が書いてあるか、そして「認定を通します」といった約束をしていないか。判断するのはハローワークと健康保険の窓口なので、通すと言える事業者はいません。
退職給付金の申請方法ともらい方を教えてください
「退職給付金」という窓口はないので、申請先は中身の制度ごとに違います。失業保険は離職票を持って住所を管轄するハローワークへ、傷病手当金は協会けんぽや健康保険組合へ出します。手順は上の「失業手当を自分で申請する手順」のとおりです。
退職前に申請することはできますか
失業保険は離職してからでないと申請できません。傷病手当金は在職中でも申請できます。連続する3日間の待期のあと、4日目以降の働けなかった日が対象です。退職前から傷病手当金を受けていて、退職日に働けない状態が続いているなら、資格を失ったあとも引き続き受け取れます。
公務員でも退職給付金は受け取れますか
失業保険は受け取れません。国や都道府県、市町村に雇われている人のうち、離職したときに他の法令で受け取る給与が求職者給付を超えると認められる人は、雇用保険法6条6号で適用除外になっているからです。代わりに国家公務員退職手当法などの失業者の退職手当があります。病気で働けないときの給付は、共済組合の傷病手当金が対応します。
派遣社員でも受け取れますか
雇用保険に入っていれば受け取れます。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇われる見込みがあれば被保険者です。派遣で気をつけたいのは離職理由のほうで、契約が終わったあと次の派遣先が決まらないまま辞めた場合、自己都合ではなく契約期間満了の扱いになることがあります。離職票の離職理由欄が実際と違うと感じたら、ハローワークで異議を申し立てられます。

